以前、2m FMで200km越えの通信ができた。
このときは、何らかの異常伝搬かと思ったのだけど、調べてみるとどうやら直接波の見通し距離の範囲のようだ。
電波の見通し距離の計算方法
これに関してje6rijさんがブログで計算している。
直接波はどこまで飛ぶ?
https://ameblo.jp/bf3gamer/entry-12342032975.html
直接波はどこまで飛ぶか? その2
https://ameblo.jp/bf3gamer/entry-12342208283.html
また、先の記事のコメント欄でも触れたが、この計算は平成29年8月期の1アマの無線工学で出題された。
電波の見通し距離と送受信アンテナ高の計算
http://www.gxk.jp/elec/musen/1ama/H29/html/H2908A22_.html
電波は大気による屈折を受けるため、等価地球半径を用いて計算する。詳細は上記のサイトを参照。結果(公式)だけ書いておく。
$$電波の見通し距離 [m] \simeq 4121 \times (\sqrt{h_1} + \sqrt{h_2})$$
ここで、\(h_1\)、\(h_2\)は、それぞれ地点1、2の高さ(\(海抜 + アンテナ地上高\))。単位はメートル。地点2の高さ\(h_2\)を0とすれば、地点1からの最小の到達距離が計算できる。
いちいち電卓で計算するは面倒なので、計算フォームを作った。地点1、地点2の各値を入力すると一番下に結果が表示される。
※この計算フォームは自由にお使いいただいて構いません。
計算例
試しに、200km越えのQSOができたときのものを計算してみる。
このとき、相手局は唐松岳の山小屋で窓からアンテナを出して運用しているとのことだったので、その場所の高さを調べる。国土地理院の地図によれば、唐松山荘の標高は2628.7mとのこと。
http://maps.gsi.go.jp/#17/36.685650/137.759145/&base=st…
山小屋の窓の高さがわからないが、仮に1.5mとする。
この二つの数字を入れて計算するとこうなる。
なるほど、211kmが電波の見通し距離になるらしい。200km越えの通信ができるわけだ。
ついでに、自宅付近の標高を調べてみたら19.7m。アンテナの地上高は7mくらいだろうか?この数字で二点間の計算する。
この条件なら232km程度の距離まで通信できるようだ。
半径を地図上に書く
計算結果を地図上に書くと、「サービスエリア」がわかりやすい。
はんけい(地図を使って半径を調べるサイト)
https://www.cloudwoods.jp/hankei/pc/
唐松山荘を中心に半径211kmの円を書いてみた。
この円の範囲内が電波の見通し距離。その外で通信できるかは、地点2のアンテナの高さ次第。建物などの陰は考慮されていないので、その点は要注意。
自宅から届く距離
自宅のアンテナでの見通し距離を計算してみた。
21.29km。うーん、そんなものか。試しに、アンテナをもう5m高くしたとして、12m高で計算してみると、23.2km。5mアップくらいではカバー範囲は大して高くならないようだ。20m高で計算しても25.97m。少々高くしたところで、直接波で届く距離は大して伸びないなぁ。その分、同軸ケーブルが長くなって損失が増えるわけだし。
とは言え、相手局が海抜0mで運用していることも少ないだろうから、仮に地点2も地点1と同条件だとして計算するとこうなる。
42.59km。まぁ、わざわざ計算するまでもなく、式から二倍になることは明らかだけど。
ということで、相手次第だけど、自宅から直接波が届く範囲は40~50km程度だろう。地図は省略^^;
自宅からほど近くに少々小高いところがある。ときどき、移動運用している方もいらっしゃる。そこの標高を調べると46mほど。これで見通し距離を計算すると30km弱。思ったほどの距離ではない。とは言え、高さがあれば建物に邪魔されることも少なくなるだろうから、そういうメリットはありそう。
計算例
ついでにいくつか調べてみた。
赤城山駐車場
まずは、2m FMでQSOできた赤城山駐車場。
国土地理院の地図では名称では検索できなかったので、Googleマップで緯度・経度を調べてから国土地理院の地図で標高を確認。
あるいは、こちらの地図でも標高を調べることができる。
Google Maps 標高 (SRTM版)
http://wisteriahill.sakura.ne.jp/GMAP/GMAP_ALTITUDE/index.ph…
標高1347mで、電波の見通し距離は151km。
高尾山
ここは、標高が599mで、RSTレポートみたいで無線屋さんに人気とか。電波の見通し距離は100km
筑波山
標高877m、電波の見通し距離122km。
蓼科山
標高2530m、電波の見通し距離207km。
富士山
標高3776m、電波の見通し距離253km。
文京シビックセンター展望ラウンジ
都心での移動運用ポイントとしてよく聞くところ。公式サイトによれば、地上105m。海抜を調べると6.6m。そうすると、電波の見通し距離は43.5km(赤円)。
もし、相手局(地点2)の高さ(海抜+アンテナ地上高)が20mであれば、見通し距離は62.0km(緑円)。
パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー
比較的近所のタワーマンション。一番高いのがこの建物のようだ。
川崎市・超高層ビルデータベース・ランキング一覧
http://www.eonet.ne.jp/~building-pc/kawasaki/birukawasaki.ht…
建物高203.5m、海抜6.7m。電波の見通し距離は59.8km。建物の最上分での計算なので、居住部だともっと低くなる。そもそも住民じゃないので入るのも難しいか。
東京タワー、東京スカイツリー
上に挙げた1アマの問題解説サイトを参考に、両タワーのアンテナの位置を海抜300、600mとして計算。東京タワーからの電波の見通し距離は71.4km(赤円)、東京スカイツリーからは100.9km(緑円)。
立山山頂レピータ
立山山頂にレピータがあるそうだ。
Welcome to JR9VQ ‘s Page 立山山頂レピーター局へようこそ
http://www.jr9vq.org/
3,000mとして計算すると、電波の見通し距離は約225km。自分のアンテナの高さ(標高+地上高)が10mであれば、見通し距離は238kmという計算結果になる。
赤が半径225km、緑が238km。
乗鞍岳山頂山小屋
Twitterで乗鞍岳山頂の山小屋から大阪、関東、北陸の局とQSOしたというコメントを頂いた(鍵付きアカウントなので引用はしない(できない))。経度緯度情報も教えてもらってので場所特定は簡単。
標高は立山山頂レピータと同じ3,000mなので、電波の見通し距離も同じ。赤が地点2の高さが0m、緑が地点2の高さが10mの場合で、それぞれ、225km、238km。
立山よりも南に位置するので、円は南にずれる。また、西は陸地部が多くなる。立山だと大阪は厳しそうだけど、乗鞍は何とかカバーできそうな感じ。
華山
実家方面で比較的メジャーな移動運用地。標高713m。電波の見通し距離は110km。
ちなみに、韓国のプサン付近を地図上で見てみると、ウルサンとの中間くらいに山があって、どうやら898mのよう。この数字を使うと、華山の高さとだと見通し距離は233.5km。両方で円を書いてみると、互いに円の中。ということは、直接波で通信できる可能性があるということになる。山の威力、すごいな。
霧降高原
日光の霧降高原とつながった。詳細はこちらの記事。
等価地球半径は一定なのか?
さて、計算のもとになっている等価地球半径。これは常に一定なのか?調べても、と言うか、調べ方がよくわからず、ようやく見つけたのがこちらのサイト。
グランドウェーブの説明
http://gbros.jp/JR1NNL/IDEA/report/grandw.htm
この中に、『「等価地球半径」は一定ではない』という節があり、それによると季節や時間によってかなり変化するらしい。ポイントだけ挙げておく。
- 冬よりも夏の方がグランドウェーブが延びる
- 朝方が1日の中で最もグランドウェーブが延びる
- 等価地球半径の変動によるQSBを「k形フェージング」と呼ぶ
季節や時間帯のような長期変動だけではなく、QSBとして感じられるような短時間変動もあるようだ。
【ちょっとコメント】
上記サイトではグランドウェーブと記載されているが、グランドウェーブは「地表波」ではなかろうか?つまり、HF帯以下で見られる大地の湾曲にそって進む電波。VHF帯以上では地表波伝搬は起きない。直接波、反射波、回折波などがある。
電波伝搬 (電波の伝わり方)
http://www.ne.jp/asahi/yokohama/cwl/dempa.html
AM放送波(中波)の電波伝搬について
http://asaseno.aki.gs/germanium/propagation.html
地表波って何?
http://hamradio.html.xdomain.jp/gw.htm
135kHz帯の電波伝搬
http://jj1grk.c.ooco.jp/136_6.htm
【ちょっとコメント – ここまで】
そう言えば、1アマの勉強で「k形フェージング」って出てきたなぁ。
VUHF帯で生じるフェージングの特徴。フェージングの名前
http://www.gxk.jp/elec/musen/1ama/H13/html/H1312A23_.html
と言うとで、上の電波の見通し距離の計算例はあくまで目安。
コメント