
まえがき
A47式ヘッドフォンアンプで手持ちのオペアンプを比べてみた。「聴き比べ」と言っても、自分の耳は大してあてにならないし、官能評価はとても苦手なので、ポップノイズの聞こえ方とか、明らかにわかる音質の違いと言った話。だいたい、聴き比べれば聴き比べるほどわからなくなるし。それと、周波数特性などを測定する。
手持ちのオペアンプは安価なものばかり。イヤフォンもヘッドフォンも安価なもの。オーディオ沼のほとりでチャプチャプやっている程度なので。
ヘッドフォンアンプは自作のMNHA05。
オペアンプ比較
では、比較。順不同。

測定時の負荷は24Ωの抵抗。なお、電源は±5V。
NJM5532DD
A47式の作例でよく使われているものの一つ。とりあえず、これを基準に、ということで最初に見てみる。
- 最低動作電圧: ±3V
- ポップ音(オン/オフ): ガッ!/コッ(かなり大きめの音)
- 出力オフセット電圧: 1.4mV / 2.1mV(それぞれのch)
- コメント: イヤフォンに比べてヘッドフォンは能率が低いが、そのヘッドフォンもしっかり鳴らせる。

周波数特性測定時の入力信号は100mVPEAK。アンプの増幅率(測定値)は5.57dB。設計値で2倍なのでこんなものだろう。

下の3dB落ちの周波数は約13Hz。入力の2.2μFと5.1kΩがHPFとして働いているのでこんなもの(計算上の3dBカットオフ周波数は約14Hz)。

高域側の0dBのポイントは890kHzくらいで、位相は-82度くらい。全然余裕。

目視で出力に歪みが見え始めるのは、入力が700mVPEAK程度から。周波数は1kHz。
本当はTHDとかの測定ができればよかったのだけど、そういう測定項目はなさそうだったので。これでその代用として(あまりにも簡易的だとは思うが、何もやらないよりは少しは参考になろうかと)。
入力が700mVPEAKなら出力は2倍の1.4VPEAK。余裕を見て出力が1VPEAKだとすると、VRMSでは0.7V。負荷抵抗が24Ωなので、電力では約20mW。イヤフォンを鳴らすには充分だろうと思う。ヘッドフォンも能率が低すぎなければ大丈夫だろう。

10kHz、100mVの矩形波を入力すると、立上り、立下りがわずかに鈍っているのがわかる。
NJM5532D
上のNJM5532DDは、NJM5532Dのノイズ選別品。10年以上前に買ったもの。こちらのNJM5532Dは通常品。比較的最近(2024年12月)購入したもの。ノイズで選別しているか否かの違いだけで、物自体は同じはず。
- 最低動作電圧: ±3V
- ポップ音(オン/オフ): ガッ!/コッ
- 出力オフセット電圧: 2.1mV / 2.2mV
- コメント: 周波数特性の測定結果ではNJM5532DDと違いが見えるが、聴感上は区別がつかない。

NJM5532DDとは高域の周波数特性がどういうわけか違う。とはいえ、可聴域を遥かに超えたところ。

目視で歪みが見え始めるのは、入力が630mVくらい。NJM5532DDより少し低い。というか、NJM5532DDの評価が甘すぎた気がする。

矩形波はNJM5532DDと区別がつかない。
NJM4556ADD
- 最低動作電圧: ±2V
- ポップ音(オン/オフ): ゴッ/なし
- 出力オフセット電圧: 0.5mV / 1.3mV
- コメント: NJM5532DDと割とよく似ている。ヘッドフォンもちゃんと鳴らせる。


入力710mVくらいから出力に歪みが見えてくる。

矩形波はNJM5532DDとほぼ同じ。
NJM4558DD
- 最低動作電圧: ±4V
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: 0.3mV / 0.6mV
- コメント: 大音量では少し歪みを感じる


歪みが見え始めるのは入力620mVくらい。

矩形波の立上りは緩い感じ。
NJM4580CG
- 最低動作電圧: ±2V
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: 1.6mV / 0.8mV
- コメント: ちょっと硬い感じ


歪みが見え始めるのは入力480mVくらい。

矩形波はNJM5532DDとほぼ同じ。
NJM8080G
- 最低動作電圧: ±2V
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: 1.3mV / 0.7mV
- コメント: 落ち着いた感じだけど、高域は賑やか


歪みが見え始めるのは入力430mVくらい。

矩形波はNJM5532DDとほぼ同じ。
NJM8065G
- 最低動作電圧: ±4V
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: 0.6mV / 0.2mV
- コメント: なんとなくザワついた感じ

高域の落始めが早い。20kHzでも少し落ちている。位相補償が過剰になってしまっているのかも。

歪みが見え始めるのは入力550mVくらい。

矩形波はNJM5532DDよりも少し丸いかな?
NJM8068G
- 最低動作電圧: ±4V
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: 0.7mV / 0.5mV
- コメント: 丸い(聞き疲れしないかも)


歪みが見え始めるのは入力450mVくらい。

矩形波はNJM5532DDとほぼ同じか、こちらのほうが少し立っているか、というところ。
TL072(UTC)
- 最低動作電圧: ±2.25V(UTCのデータシートには記載がなかったので、TIのTL072の値)
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: -2.9mV / -4.1mV
- コメント: 明らかに歪みっぽい。聞くに耐えない。


歪みが見え始めるのは入力220mVくらい。かなり低い。歪っぽさの原因だろう。

矩形波の立上りは割と鈍い。
OPA2134PA
- 最低動作電圧: ±2.5V
- ポップ音(オン/オフ): ゴッ/コッ
- 出力オフセット電圧: 1.2mV / -0.9mV
- コメント: 滑らか。しかし、ヘッドフォンで大音量だと歪む


歪みが見え始めるのは入力640mVくらい。

矩形波はNJM5532DDとほぼ同じか、こちらのほうが少し緩いか、というところ。
NJM2068D
- 最低動作電圧: ±4V
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: 0.1mV / 0.5mV
- コメント: 柔らかい。しかし、ヘッドフォンは全然鳴らせない(歪みまくり)。


歪みが見え始めるのは入力480mVくらい。

立上り、立下りでリンギングが見える。
NJM2114DD
- 最低動作電圧: ±3V
- ポップ音(オン/オフ): ガッ!/コッ(NJM5532DD並にやかましい)
- 出力オフセット電圧: 0.5mV / 0.2mV
- コメント: NJM5532DDをどっしりさせたという感じ。大音量では発振がみられる。


歪み(発振)が見え始めるのは入力610mVくらい。

矩形波はNJM5532DDよりもわずかに丸い。
NJM3404AD
- 最低動作電圧: +4V(単電源)
- ポップ音(オン/オフ): ポ/なし
- 出力オフセット電圧: -1.4mV / -1.4mV
- コメント: 柔らかい。ヘッドフォンもしっかり鳴らせる。

高域の落ち方が急。とはいえ、可聴域の20kHzくらいまではほぼフラット。位相補償が過剰になっているのかも。

歪みが見え始めるのは入力710mVくらい。

矩形波の立上りはオーバシュートしているし、立下りは丸い。
NJM13404D
- 最低動作電圧: +2V(単電源)
- ポップ音(オン/オフ): ボッ/なし
- 出力オフセット電圧: -1.1mV / -2.3mV
- コメント: NJM3404ADによく似た感じだが、大音量では少し歪みを感じる


歪みが見え始めるのは入力690mVくらい。

矩形波はちょっと丸い。
MC33078DR2G
- 最低動作電圧: ±5V
- ポップ音(オン/オフ): ポ/なし
- 出力オフセット電圧: 0.2mV / 0.2mV
- コメント: NJM5532DDよりもどっしりした感じ。NJM2114DDやNJM8068Gに似ているかも。大音量では歪む。最低動作電圧の条件が本機にとっては厳しいが、大きな問題は感じない。


歪みが見え始めるのは510mVくらい。

矩形波はNJM5532DDと区別がつかない。
まとめ
色々と試してみた結果、「やっぱ、NJM5532でいいんじゃない?」という感想。作例が多い(よく使われてる)だけのことはある。DとDDは(このヘッドフォンアンプと私の耳では)区別がつかない。難点はポップ音がやかましいこと。
NJM2114DDだとさらにどっしりした感じで、どちらかといえばこちらのほうが好き。大音量だと変な発振が見られるのが気にはなるけど、相当な大音量の場合。通常聞く程度の音量なら問題ない。それよりも問題は、生産終了品のため、今となっては入手難なこと(貴重品ともいう)。あと、ポップ音はNJM5532DD並にやかましい。
NJM4556ADはNJM5532D/DDと似たような音で、ポップ音は少し静か。
NJM8068Gは少しおとなし目だけど結構好み。ポップ音は割と静か。NJM5532DDほどの大音量は出せないが、通常聞く分には不自由しないだろうと思う。なお、表面実装部品。
MC33078DR2GはNJM8068Gによく似ているように思う。MC33078DR2Gのほうがどっしり感があるかも。ポップ音はかなり静かでよい。ただ、最低動作電圧が±5Vなので、本機の仕様ではちょっと厳しい。聴感上は問題を感じないが。なお、これも表面実装部品。
別格で良いのはOPA2134PA。これは私が持っているオペアンプの中では高額なもの。さすがに評判が良いだけのことはある。私の駄耳でもよくわかる。ただし、十年以上前に買ったもので、今ではTIの政策のため、残念ながら入手難。個人を排除するような政策で、自作界隈ではTI製品は避ける傾向だろう。TI製品に馴染みのない若者が増え、仕事でも使わなくなるんじゃなかろうか?
最後にもう一度。これは、上にも書いたとおり、自作のヘッドフォンアンプMBHA05(回路はA47式)での結果。回路が違えば結果も違ってくるだろうと思う。
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