これもトラ技2024年12月号関連。プリント基板の自動レイアウトツールがあるという話を聞いたので試してみたが、まだまだ実用への道のりは長そうだというところ。そんなわけで、誌面には掲載されなかった(しょうがないと思うレベル)。記事原稿はあるので、ここで紹介(そういうものなので、文章のテイストが他の記事とは違う)。
なお、この記事の内容は2024年9月時点のもの。今は状況が変っているかもしれない。
CADの普及
個人でも気軽に使えるプリント基板CADが登場し、ホビーとしての電子工作でもプリント基板を作るのはもはや珍しくなくなってきました。回路図で書いた通りの配線がされていますから、実装時の配線ミスは発生しません。ユニバーサル基板での実装ではトラブルの原因がミス配線だったということも少なくありませんでしたが(私だけかもしれませんが)、プリント基板CADでその問題から開放されてとても楽になりました。
一つ楽になると、さらに楽をしたくなるのは人の常、いや、向上心です。「回路図を書いたら、あとは自動で部品を配置して配線もしてくれるといいなぁ」と思ったりします。
人が思ったことは実現されるもの。そうした自動レイアウトツールがあるという話を聞きつけました。
Quilter
そのツールは、Quilterといいます。
今はまだベータ版のようで、それゆえ、無料で利用できるようになっています。完成したあかつきには有料化されるのでしょう。まずは、現段階でどのようなものか見てみることにしました。
作業の流れ
まだ情報があまりなく、どのよう使うのか理解するまでに苦労しました。大まかなポイントを挙げておきます。
- CADで回路図と基板外形図を作る。
- 対応しているCADはAltiumとKiCad
- プリント基板の情報は、外形だけでOK
- 位置を指定したい部品があれば自分であらかじめ配置しておく(ジャックを基板の端に置きたいなど)
- 配線も指定したいものはあらかじめ配線しておく
- その他の部品は基板外に置いた状態でよく、もちろん、配線も不要
- CADのファイルをQuilterにアップロードする。
- KiCADの場合は、.kicad_pcb(基板レイアウト) .kicad_sch(回路図), .kicad_pro(プロジェクト)の三つ
- ネット(配線)ごとの電流条件などを設定する
- ジョブを走らせて、あとは待つだけ
実際の様子
では、実際に試した様子を紹介します。
以前作った簡単な回路を使って試してみます。回路図と基板外形図が下の図です。
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ジャック類などはあらかじめ配置しています。また、基板外形は単純な四角ではなく、いくつかの突起がある少々複雑な形状です。
Quilterにファイルをアップロードした様子がこれです。
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部品が認識されている様子がわかります。
配線の電流値は、テスト目的でかなり大きくしてみました。
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あとは、右下の「SUBMIT」ボタンを押すだけです。
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実行時間は非常に長くかかります。候補を複数作ってくれるのですが、その最初の候補ができるまでに1~2時間、全候補の完成は2~6時間と表示されています。実際にはもっとかかったように思います(半日程度)。
作業が完了するとメールで連絡が来ます。サイトにアクセスするとたくさんの候補ができあがっていました。この例では、123もの候補があります。おすすめされているのは16番と86番のようです。
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できあがりを確認する
おすすめされた候補の一つをダウンロードしてみました。ZIPされたファイルで、中身はプロジェクトファイルと基板ファイルでした。
KiCadで開いた様子が下の図です。ベタパターンへの接続はサーマルリリーフにはなっていないようです。また、どのネットをベタパターンにするかの指定もなさそうでした。
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ベタパターンを消して表示してみました。
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配線の電流値はずいぶんを大きなものを指定してみましたが、どれも細いパターンで引かれています(0.26mm程度でした)。
デザインルールチェッカにかけてみたら大量のエラーが出ました。外形に突起があるのが原因で、ペタパターンの領域が上手く認識されず、基板端にVIAを打ってしまっています。
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それから、3D表示するとよく分かるのですが、基板の両面に部品が配置されてしまっています。
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これでは意図とはまったく違います。
配線候補の一覧に「Single-sided」のチェックボックスがありましたので、これをチェックして改めてジョブを走らせてみたのですが、今度は候補の数は0になってしまいました。
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どうやら片面実装では配線できなかったということでしょう。もちろん、この基板は手動では下の図のように片面で実装していたものです(KiCadの3Dビューアーでは基板が分厚く表示されることがありますが、詳細は不明です)。
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まとめ
コンセプトはとても魅力的なツールですが、まだ「やりたいこととできること」のギャップが大きいようです。現状では、「自分でやったほうが早い」と言わざるを得ませんが、どんどん発展していく分野だと思いますので、今後の展開に注目しておきたいです。
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