スイッチングACアダプタのノイズを消したい
スイッチングACアダプタの出力がノイジーなのをなんとかしようという話。スイッチングACアダプタを「トランス+整流回路」とみなして、その後に三端子レギュレータを付ければ、スイッチングレギュレータ由来のノイズ(電圧変動)が消えてきれいになるんじゃなかろうかと。
そんな思いつきは、当然、世の中ではやられており、こういう使い方をポストレギュレータと呼ぶらしい。その場合に重要ながレギュレータのPSRR(Power Supply Rejection Ratio: 電源電圧変動除去比)だそうだ。
回路
ということで、実験。回路はこれ。
三端子レギュレータの前にL(27μH)とC(1000μF x 2)、後ろにC(2200μF x 3)を付けた格好。
出力電圧は5V。(1 + (360 / 120)) * 1.25 = 5[V]。
使用するレギュレータはLM350。ちょっと大きめの電流を取りたいので、317ではなく、350にした。
固定電圧レギュレータではなく、可変電圧タイプにしたのはリファレンス部分にCを付けることでPSRRを向上できるから。下の図は、TIのデータシートから引用。
出力電流によってもPSRRは変動する。いずれにしても、Cを付けたほうが良い。
実験
入力電圧: 9V
写真ではわかりにくいが、底板(黒い基板)が放熱板になっている(100x100mm、ほぼ両面全面銅箔)。どの程度の効果があるかはわからないが、ないよりはずっといいはず。
ACアダプタは、9V 2.5A出力のもの。
負荷は、3Ω 50Wのメタルクラッド抵抗。3Ωと言っても誤差が結構あるだろうと思ったんだけど、本当に3Ωだった(2.993Ω)。とはいえ、発熱によって変動するだろうとは思うが。
5Vに対して3Ωの負荷なので、約1.67A流れる。電力では、約8.35W。
一方、レギュレータで消費されるのは、単純計算で(9 – 5) * 1.67 = 6.68[W]。逆ざし保護のショットキーバリアダイオードによる電圧降下を考慮すれば、レギュレータで熱に変わるのは6W程度か?
まず、無負荷時の波形(正確にはLEDを点灯させているが)。Ch1(オレンジ)が入力(フューズとダイオードの間)。約27kHz周期でスパイク状のノイズが確認できる(スケールは100mV/div)。Ch2(青)が出力。Ch1にあったノイズは消えている(スケールはCh1の1/10の10mV/div)。
続いて、出力に3Ωの抵抗をつないだ状態。入力側のノイズは周期が早まり、レベルもだいぶ大きくなった。出力側には変化は見られない(期待通り)。
発熱は結構すごい。サーモカメラで見た様子。負荷抵抗とレギュレータが相当熱を出している。手ではほんの一瞬しか触れない。
サーマルカメラでは100℃を超えており、本当かと思って熱を測ったら130℃くらいあった。
こんなに発熱しているとまずそうだけど、レギュレータの熱保護機能が働くほどではないようで、ずっとこのまま動作し続けた(少なくとも10分以上)。
底板(放熱板)全体もかなり熱い。しかし、レギュレータの近くとちょっと離れたところでは、温度が全然違う(手で触った感じでは)。プリント基板の銅箔程度では、放熱性能はこんなものか。
入力電圧: 13.8V
ACアダプタを変えて、入力電圧を高くしてみる。これは、12Vのアダプタを改造して13.8V化したもの。
これを上のように3Ωの負荷で動かすとあっという間に触れないほどの温度になり、10秒位で保護機能が働いて出力電圧が落ちてしまった(熱保護機能の動作確認にはなった)。単純計算で8.8Vほど落とすことになり、そうすると14W以上が熱になってしまうのだからしょうがないか。
そこで負荷を軽くすることにした。手持ちの抵抗の都合で、51Ω 5Wの酸化金属抵抗を三本、50Ω 10Wのメタルクラッド抵抗を二本。これらをパラにして約10Ω。500mAほどが流れることになる。熱になるのは4.4W分程度。
出力波形。スケールは上と同じ(Ch1が100mV/div、Ch2が10mV/div)。
ACアダプタ自体が先程とは違うので直接は比較できないけど、負荷が軽いこともあって、リプル電圧は小さめ。出力にはもちろん出てこない。
それでも発熱は結構なもので、レギュレータ部は100℃を超えていた。
まとめ
スイッチングACアダプタの後ろに三端子レギュレータを入れることで、スイッチング由来のノイズを除去できることが確認できた。トランス方式のACアダプタはでかくて重いし、そもそも今となっては入手難。こうした工夫で、入手が容易なスイッチング方式のものでも比較的クリーンな電源が得られそう。
課題は放熱。この装置では9V入力で連続使用できる出力電流は1A程度というところか?13.8V入力だと数百mAでも連続使用は厳しそう。当たり前のことながら、発熱を考慮すれば入力電圧は低めに抑えたほうが良い(エネルギーの無駄が少ない)。
【つづき】
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