QRP Labsのキットを組み立てた(組み立てるまでに時間がかかったし、記事にまとめるのもかなり時間がかかったので、今頃になって記事を公開)。
まえがき
これはHFの5Wトランシーバ。CWとデジタルモード専用だけど、SSBへの対応予定もある(マイクも内蔵している)。そもそも知ったのは、QEXの記事。前にも見たことはあったような気もするけれど、この記事で詳しく知って「これは面白そう」と思ってすぐに発注した。
発注したのが2023年11月22日。なかなか発送されないなぁと思っていたら、基板の改版のため、出荷が止まっていたとのこと。結局発送されたのは12月8日で、到着が15日。送料が一番安いTNTというのを選んだら、トルコから発送された(国内配送はFedExだった)。Twitterで聞いた他の方々の話では、もっと早く発注したのに発送は私よりも遅かったなどあった。出荷を止めていた影響でドタバタしたのかな。
というわけで、昨年の12月の中頃には手元にあったのだけど、他のことをやっていたり、一旦作り始めたものの、また他のものが割り込んできたりで、時間がかかったがようやく完成。
組立て
まず、内容物。
ローバンド版(80m – 20m)とハイバンド版(20m – 10m)があるが、入したのはローバンド版。ざっくりえば、LPFの違い。もうちょっと大きくても構わないのでフルバンドにしてほしかった気もする。
組立手順はQMX誌に詳しく書かれていたのだけど、前述の通り、基板が改版になってて変更点が色々あるようで、混乱するといけないからざっと見る程度に留めた。
組立マニュアルは、当然、英語。ありがたいことに昨今は翻訳ソフトがかなり良くなってきている。DeepL、Copilot、Geminiを使ってみたところ(部分部分でコピペして翻訳)、Geminiが最もわかりやすかった。DeepLは、最近のバージョンでは文字が勝手に小さくなるので使いづらい。MSのはBingチャットと呼ばれていた頃は良かったけれど、Copilotという名称になった頃から品質・使い勝手が低下してしまった。GoogleはBardはひどかったが、Geminiに変ってからかなり良くなった。ただし、そのまま訳さないで勝手に体裁を整えたり要約したりする傾向がある。このへんのツールはまだ変化が大きいので、そのときに一番良さそうのものを選ぶのが良さそう。
電源電圧
QMXの組立てで最初に決めなきゃいけないのが電源電圧。9Vか12Vの二択。終段トランジスタに掛かる電圧を決める。
12Vの方が汎用的かなと思ったのだけど、「12Vを超えてはいけない」という仕様。電圧が高いとパワーが出すぎて発熱でトランジスタが壊れるそうだ。
安定化電源だと13.8Vだし、バッテリでも12Vを超えることは珍しくない。三端子レギュレータなどで電圧を落とせばいいだろうが、12Vちょい超えから12Vを作るのは難しい。となると、9Vにしておくのが良さそう。
などと考えて作ったのがこれ。
普通にドロッパ式のレギュレータを使ってもいいのだけど、せっかくQRPなのに落とした電圧が熱になってしまうのはもったいない。効率を考えたらスイッチング式だよなと。しかし、スイッチング式だとリプル(≒ノイズ)が問題になる。なのでその対策を入れた。
また、せっかくなので、9V、6Vの切替式にした(後に6.4Vに変更)。QMXにはパワーコントロールはないので、電圧を下げて送信出力を下げようという目論見。これもスイッチング式のメリット、ドロッパ式だと電圧下げると熱が増えるだけで消費電力が減るわけじゃないから。
こんなことをやっていたのもQMXの組立てが遅くなった理由の一つ。
基板分割
基板をバラしてヤスリがけ。
基板は6層だそう。チップ部品は実装済み。
C、L、D、Tr
終段トランジスタは放熱シート(手持ち品)を挟んで取り付けた。
C、L(マイクロインダクタ)、D、Trまで取付けた状態。かなりギチギチで、トランジスタを固定するネジの頭はICに当たっているんじゃないかという気がする。コンデンサのランドともスレスレ。ダイオードはほとんどはカソードが上だけど、1本だけ逆向き(アノードが上)。そうしないと隣のダイオードとむき出しの足同士が接触する可能性があったので(絶縁チューブを被せるという手もあるが)。
手巻きコイル
ここからがさらに大変。
まず、T501のトランス。これが電源電圧によって作り方が変るもの。別冊マニュアルに従って作っていく。
簡単言えば、20cmの長さのワイヤが二本。一本は中央にタップ。その二本を電動ドリルを使ってよじる。
よじったものをコアに巻く。よじって太く固くなっているのでかなり巻きにくい。
こういうのは普通は取り付け前にハンダメッキしたいところだけど、そうすると基板の穴に入らなくなるらしい。それでも基板の改版で多少良くなっているみたいだが。なので、ハンダメッキはせずに被覆をある程度はがしておく、ニッパで軽く挟んでこさぎ落とした(標準語で言えば「ひっかく感じで落とす」というところか?)。紙ヤスリやナイフなどよりも、ニッパのほうが個人的には楽。
LPFなど、他のコイルも巻いて取付けた状態。
被覆を事前にはがしているとは言え、ハンダ付けはかなり大変。6層板なのでコテの熱がどんどん持っていかれる(2.4D型という太めのコテ先を使っているにも関わらず)。マニュアルにも10秒以上加熱しろと言うように書かれているけれど、そんなものじゃ付かない。かなり長時間加熱した。テスタでつながっているはずのところの導通チェックすると導通がなかったりで、何度も加熱し直し。ものすごく大変というのが感想。ハンダメッキしたワイヤが通るように、穴をもう一回り大きくして欲しい。
また、LPFはコア同士が隣り合うところはワイヤを避けないとぶつかって収まらない。とにかくギチギチで収めるのが大変。
LPF用コイルの巻数
LPF用のコイルの巻数はマニュアルの巻数とは変えた。背景はこれ。
簡単に言うと「所定の回数巻いたものを実測するとインダクタンスがだいぶ大きい」ということ。
インダクタンス | マニュアル上の巻数 | 実測値(@30MHz) | |
---|---|---|---|
L511 | 2.40μH | 26t | 2.81μH |
L506 | 2.88μH | 28t | 3.43μH |
L512 | 1.06μH | 17t | (未測定) |
L508 | 1.20μH | 18t | 1.28μH |
L513 | 394nH | 10t | 419nH |
L510 | 525nH | 12t | 633nH |
念のため、マニュアル(Rev 1.02a)の当該部分を引用。
※L513はこの表では393nHと記されているが、同じマニュアルの別のページの表や回路図では394nHとなっている(まぁ、誤差の範囲だけど)。
実測値を元に、必要なインダクタンスに近い巻数にした。
マニュアル上の値 | 実測値(@30MHz) | |
---|---|---|
L511 | 2.40μH (26t) | 2.39μH (24t) |
L506 | 2.88μH (28t) | 2.81μH (26t) |
L512 | 1.06μH (17t) | 1.02μH (16t) |
L508 | 1.20μH (18t) | 1.28μH (18t) |
L513 | 394nH (10t) | 419nH (10t) |
L510 | 525nH (12t) | 514nH (11t) |
これに関係するのだけど、C516とC525の容量が回路図とマニュアルとでは入れ替わっている。
これはQMXのトラブルシューティングのページに項目の一つとして挙がっている。
当初、20mで送信出力が小さく、C525とC516を逆にした(ら良くなった)ということらしい。でも、上の巻数とインダクタンスの関係からすると、インダクタンスが設計値よりも大きくなっているのが原因では?
ということで、シミュレーション。
- Out1: 回路図の定数(おそらく元々の設計)
- Out2: インダクタンスを実測値に変更
- Out3: C516とC525の値を入替え(インダクタンスは実測値、すなわちマニュアルの状態)
- Out4: インダクタンスを実測値を元にした巻数に変更(C516とC525は元々の値)
- Out5: Out4の状態でC516とC525を入替え
元々の設計のOut1(緑)が落ち始めが最も遅い。Out2(青)とOut3(赤)は落ち始めが早い(コンデンサを入れ替えても大差ない)。実測に基づいた巻数にしたOut4(青緑)は元々の設計(Out1)と落ち始めの点では近い。Out1よりもOut3の方が遠方が急峻なのはL513の値が設計値よりも大きいからだろう。Out5(赤紫)は予想に反して落ち始めはOut2に近い。
ということで、元々の設計値に近いOut4の状態を採用(Cはマニュアルではなく回路図の方ということ)。
他のバンドのLの巻数も、上述のとおり、実測値に基づいて決めた。
電源モジュール取付け
これもナットが隣の部品と干渉しまくり。この向きにしか入らない。一旦仮止めしてピンヘッダをハンダ付け。その後取り外してピンヘッダの裏もハンダ付け(二列なので)。
改造
改造というか、サイト上で指示された二つの補修(バグ修正)。
一つは74CBT3253の保護のためのダイオードの取付け。
チップの1N4148も手持ちにあったけど、SOD-123サイズでトランジスタのピン間に載せるには大きすぎ。1N5819ならSOD-323サイズのものがあったが、これだとショットキーなのでおそらく目的には合わない。素直にリードタイプの1N4148を付けた。
もう一つはPTT出力の配線ミスの修正。
チェックと修正
電源を入れて動かなかったら問題を探すのが大変なので、とにかくひたすら目視とテスタで導通チェック。上にも書いたけど、コイルのハンダ付けが怪しいところがいくつか(いくつも?)あったので、再加熱、再ハンダ。
ハンダがボッテリ気味なところは減らす(隣とショートはしてないとは思うが、一応)。
そこうしているうちに破損しているチップコンデンサを発見。シルクを見るとC510とある。
2.2μFだそうだが、あいにく手持ちがない。幸い、広い場所なので、1μFを二つ並べた。
ファームウェア書込み
目視等で問題なさそうなので、仮組立。
いよいよファームウェアを書き込む。
電源電圧は、とりあえず、6Vとした。この二つを並べると電源モジュールがとても大きく見えるが、サイズは秋月C基板と同じ(合わせた)。QMXがいかに小さいかがわかる。
左のロータリエンコーダを押し込む(長押し)すると電源が入るはずなのだけど、パイロットランプなどないし、LCDのバックライトもつかないので、本体を見ても電源が入ったかどうかわからない。
正常に動いていれば、USBケーブルでPCにつないでいると、ドライブとして見える。
ここにファームウェアのファイルをドラッグ&ドロップするだけ。ファイル転送が始まるまでにちょっと時間がかかって、一瞬「あれ?」と思ったが、数秒後には転送が始まってすぐに書き込みが終わった。
QMX本体は自動的にリセットがかかって起動。
オペレーティングマニュアルを見ながら、受信と送信が一応はできるところまで確認。
じっくり目視したのが良かったようで、ここまではトラブルなし。
ところが、オペーレーティングマニュアルにこの記述を発見。
なんと、動作下限電圧は6Vだそうた。組立てマニュアルに5Vからの送信出力のグラフがあったので、てっきり5Vから動作可能だと思っていたのに。
ということで、電源装置の方を、急遽、6.4Vに改造。無事、動作確認。
これで、6.4V時は約2.5W、9V時は約5Wの切替式になった(はず)。
ケースへ組込み
一応、動作の確認ができたので、ケースに入れる。これがまたパズル。
仮組立したままの状態ではケースには入らず、一旦バラす。上の基板だけを上蓋にスライドして差し込み。そこに残りの基板を取り付ける。
とかくと簡単そうだけど、実際にやってみるとロータリエンコーダなどの基板が穴になかなか通らない。左右のクリアランスがきつすぎ。穴の方をもうちょっと広げるべき。ヤスリで削っても良かったかも。次にバラすことがあったら考えてみよう。
どうにかこうにか収めた。ちなみに、ツマミはちょっと浮かした状態でネジ止めする。そうしないとケースにこすってしまうし、押し込むためのギャップも必要だし。よく見たらマニュアルにも書いてあった。
サイズ感は、NanoVNAよりもちょっと大きく、NanoVNA-H4よりもだいぶ小さい。厚さはNanoVNA-H4の1.5倍くらいかな(ツマミを除いて)。バッテリは入っていないとは言え、とにかくものすごく小さい。
長くなったので、スプリアスなどの測定は別記事で。
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