同軸ケーブルをつないで手元で測りたい
アンテナの調整を行う際、アンテナアナライザのキャリブレーションはアンテナの給電点(同軸ケーブルの先)で行うべきであることはわかっている。でも、実際にそれを行うのは簡単とは言い難い。
https://www.jh4vaj.com/archives/16249
同軸ケーブルの長さを(電気的)λ/2にするという手はあるが、それもなかなか面倒だし、マルチバンドで使うのは難しい(7MHzと14MHzのように整数倍の組合せなら可能だろうが)。
アンテナアナライザの出力端でキャリブレーションを行った状態で、正しく測定することはできないか?そう思って調べてみると、同軸ケーブルによる遅延分を補正するという方法があるようだ。参考にしたのはこちらのサイト。
実験
NanoVNASaverを使って、早速、実験。
直結(リファレンス)
まずは、リファレンスとしてNanoVNAに直結した状態。
実際のアンテナだと周りの影響を受けやすく、何を見ているかわからなくなったりする。そこで、アンテナの代りにLCR共振回路を使う。これなら、測定結果が安定しており、わかりやすい。というか、今回の実験をやりたかったので、このLCR共振回路を作ったのが本当のところ。
※NanoVNASaverの画面はクリックで拡大(ESCで戻る)。
マーカが指しているポイントは以下の通り。
- 1: jX = 0(共振点)
- 2: |Z|が最大
- 3: VSWRが最小
- 4, 5: VSWRが2以下の範囲
10mの同軸ケーブル接続状態
10mのRG-58C/Uをつないで測定。キャリブレーションはNanoVNAコネクタの位置で行った状態のまま。
予想通り、グチャグチャ。VSWRのグラフだけがそれなりに似ている。ただし、同軸ケーブルによる損失があるため、本来の値よりもよく見えてしまっている。さざ波をうっている理由は不明。なお、マーカの位置は変えてない。
【追記】
さざ波の原因はコネクタの不整合が原因だそうだ。Twitterで教えていただいた。
同軸ケーブル先端でキャリブレーション
今度は、同軸ケーブルを通った先、言い換えると、アンテナ(代用の回路)の根本でキャリブレーションを行って測定。
最初の直結状態とほぼ同じ。微妙に違うのは変換コネクタによる影響だと思う(最初のものは、キャリブレーション後の状態に対してSMAオス-SMAオス変換コネクタが入っている)。
同軸ケーブルの先でキャリブレーションを行えば正しく測れることがわかる。
同軸ケーブルによる遅延
光の速度は、真空中で約\(3\times 10^8 [m/s]\)。同軸ケーブルを流れる電気信号の速度は、これに速度係数(短縮率)を乗じたもの。RG-58C/Uでは、0.67。すなわち、RG-58C/U 1mあたりの遅延時間は以下のように計算できる。
$$\frac{1}{3\times 10^8\times 0.67} = 4975.12\times 10^{12}[s]$$
ピコ秒として読みやすいように\(10^{12}\)で表した。
この同軸ケーブルの長さは、以前の実験で10.2[m]であることがわかっている。したがって、遅延時間は次のようになる。
$$4975.12\times 10.2 = 50746.22[ps]$$
変換コネクタが入っているので、その分を考慮すると51000[ps]程度か?
この値を、NanoVNASaverに設定する。場所は、Calibrationウィンドウの「Offset delay」の項目。
上のように負の値として入力する(正の値を入力したら思った結果にならなかった)。
さざ波が生じていることと、ケーブルによる減衰の分だけ良い特性に見えてしまっているという問題はあるが、それを別とすれば、同軸ケーブルによる影響(遅延)を排除した測定ができた。
実は、この遅延時間、結構シビアなようで、当初はケーブル長を10mとして考えて遅延時間を49751[ps]と設定していたのだけど、それだと全然違う結果になってしまい、頭を捻った。
そこで、同軸ケーブルの長さをより正確な値で遅延時間を計算し直し、その値を設定したら上のように思ったような結果が得られた。10mと10.2mの違いは、2%。わずかな違いでこれほどの影響があろうとは。
Offset delayを正しく活用するためには、同軸ケーブルの長さをメジャーでちゃんと測るか、NanoVNAのTDR機能を使って長さを正確に知る必要がある。
NanoVNA単体の場合
NanoVNA本体にも遅延時間の設定がある。これを使えば、単体でも上と同様な測定が可能。
まず、NanoVNAにLCR共振回路を直結した場合(リファレンス)。
遅延時間の設定は、DISPLAY → SCALE → ELECTRICAL DELAY。
ここに先程の値の二倍、\(51000 \times 2 = 102000[ps]\)(または、102[ns])を設定する。なぜ二倍の値を入れるのかは不明。私の設定がどこか間違っているのかも…。なお、こちらでは正の値として入力する。
記事を拝見しました。Electrical Delayがケーブル長の倍になるのは、S11の計測では、参照面から見るとケーブル先端からの反射は往復分となるからです。一方S21では片道です。CALのOFFSETとは意味が違っているのです。
— TT@北海道 (@edy555) May 19, 2020
NanoVNASaverの場合と同様、さざ波問題と損失による特性への影響を別として、同軸ケーブルによる遅延を除いた結果が得られた。
遅延時間の値をもっと追い込みたいなら、例えば、同軸ケーブルの先端を開放にし、Smithチャート上のポイントが然るべき位置に来るようにELECTRICAL DELAYの値を変えてみる。
このときの値は、102400[ps]。Smithチャート上の無限大の位置にならずにやや中心に寄っているのは同軸ケーブルによる減衰の影響。これで測定した結果が下の図。
より、本来の状態に近いグラフになった。
【追記】
いちいち計算せずに、簡単に設定する方法。
コメント
#NanoVNAでtuitter眺めていたらどこかでみたページがあり、びっくり!。検索してこのサイトに来ました。
私も一時QRTしていましたが、細々とやっている組です。
ご紹介ありがとうございます。
参考にさせてもらった記事の方でしょう?あの記事のおかけでdelayの用途がわかりました。ありがとうございます。
なお、このブログは、現在、正常に稼働しておりません。なんとかかろうじて動いている状態で、復旧手段を考えているところです。復旧時には、頂いたコメントが失われてしまう可能性があります。何卒、ご了承ください。