「NanoVNAをアンテナアナライザとして使おうと思ったけどわからん…」っていう方が少なくないようなので、事前に設定したデータファイルを用意してみた。
対象機種
こちらで用意した設定データを取り込む必要があるので、microSD対応のNanoVNA-H4が対象。HW versionが4.3(以降)なら対応しているはず。初期のモデルでは残念ながらmicroSDスロットがない。2.8インチ版は手元にないのでデータを用意できない(ので、H4だけ)。
NanoVNA-H4のmicroSDカードのスロットはカードが隙間に落ちやすいので要注意。ちょっとした改造でその事故は防げる。詳細はこちらの記事。
やっている内容は、以前書いた記事と基本的に同じ。NanoVNA-H4(microSD付き)以外の機種だとか、自分で設定するならこちらを参考に。だいぶ古いファームウェアの画面だけど…。
MODE確認
本題に入る前に事前確認。
NanoVNAでは内部のチップにSi5351を使ったものとMS5351を使ったものとがある。裏のラベルのHW versionに「MS」が付いていればMS5351、付いていなければSi5351が使われている。どちらが使われているかを設定する必要がある。
この例ではMSが付いているのでMS5351。
メニュー(トップ)を開いて「CONFIG」をタップ。
「EXPERT SETTINGS」をタップ。
「→ MORE」をタップ。
一番上の「MODE」を確認。これをタップしてそのNanoVNAに使われているチップに合わせる(タップする度にトグルする)。
Si5351とMS5351は仕様の範囲内(~200MHz)では互換。NanoVNAでは仕様の範囲を超えたところも使っており、そこでは両者の挙動に違いがあるらしい。その違いを補正するのがこの設定の目的。
また、5351の基本波を超えた領域では高調波を使って測定する。どこから高調波を使うかの閾値が一つ前の画面の「THRESHOLD」。
この値は290MHzくらいにしておくのが良いのかもしれない。情報源はこちらの記事。
設定後は、もう一つ前の画面に戻って「SAVE CONFIG」を行う。これを行わないと、電源を入れ直すと元に戻ってしまう。
設定データファイル
では、本題。
アンテナアナライザとして使うので、SWR、R(抵抗)、X(リアクタンス)、それにスミスチャートが見られるように設定する。そのように設定したデータファイルは以下のリンクにおいておいた。
これをダウンロードし、ZIPを展開する。中に「SWR_HF.cal」というファイルが入っている(一つだけ)。それをmicroSDカードにコピーし、NanoVNA-H4のスロットに挿し込む。
これで事前準備は完了。
使い方
順を追って操作方法を。
データファイル呼出し
メニューを開いて「SD CARD」をタップ。
「LOAD」をタップ。
「LOAD CAL」をタップ。
先程コピーした「SWR_HF.cal」をタップ(CAL01.calは私が別途保存したデータファイル。ここでは無視してOK)。
これでmicroSDカードに保存した設定データファイルが読み出された。
設定されている条件は以下の通り。
- 周波数範囲: 50kHz~30MHz
- 黄: SWR(縦軸 0.2/div)
- 青: R(縦軸 25Ω/div、一番下が0Ω)
- 赤: X(縦軸 25Ω/div、中央が0Ω)
- 緑: スミスチャート
キャリブレーション
VNAでの測定ではキャリブレーションが重要。本来なら同軸ケーブルの先(アンテナ直下)を基準にキャリブレーションを行わなければならない。NanoVNAのコネクタ直でキャリブレートした場合は以下の問題があることは頭に入れておく。
- 同軸ケーブルによって位相が回った状態になるので、スミスチャートやリアクタンスは正しくない
- SWRのカーブはわかるが、値は良い方向にズレる(同軸ケーブルによる損失で見かけ上の反射が少なくなるため)
とはいえ、アンテナの調整具合を見ることはできる。繰り返しになるが、正しい値を調べたい場合はアンテナ直下(NanoVNAから見て同軸ケーブルの先)でキャリブレーションを行う。
以上を踏まえた上でキャリブレーションを行う。「CALIBRATE」をタップ。
「CALIBRATE」をタップ。
PORT1(上のポート)にオープン用のコネクタを取り付けて一呼吸おき(表示が落ち着くのを待って)、「OPEN」をタップ。
オープンの動作が終ったら、コネクタをショートに交換し、「SHORT」をタップ。
続いてロードコネクタに交換し、「LOAD」をタップ。
ロードも終ったら「DONE」をタップ。
保存先のリストが出てくるので、適当な場所(好みの場所)をタップ(「SAVE TO SD CARD」をタップしてmicroSDカードに保存することも可能)。
念のため、キャリブレーションが正しく行われているか確認する。
オープンコネクタを付けた場合は、マーカ(緑)がスミスチャートの中心線上の右端を示す。
ショートコネクタを付けると左端を示す。
ロードコネクタでは中央を示す。
この三点が正しくない場合はキャリブレーションに失敗しているので、もう一度やり直す。
測定
この状態では周波数範囲が50kHz~30MHzに設定されているので、目的の周波数に変更する。例えば、7MHz帯用のアンテナを見るように変更する。
「STIMULUS」をタップ。
スタート周波数とストップ周波数、または、センタ周波数とスパンで周波数の範囲を設定する。こことでは、スタートとストップを設定する方法で進める。「START」をタップ。
10キーでスタート周波数を設定する。ここではバンド外も含めて広い範囲を見るように設定してみる。「6900k」とタップする(「6.9M」でもok)。
同様に「STOP」とタップして、続けてストップ周波数を設定する(「7300k」とタップする)。
これで周波数範囲が6.9~7.3MHzに設定された(画面の一番下)。この時点ではキャリブレーション用のロードコネクタをつないだままだったので、グラフに変化はない。
アンテナにつなぎ替える。
レバースイッチを倒してマーカを動かし、SWRの最低点付近に移動してみる。
7.06MHzあたりでSWRは1.12くらいと読める。この状態では縦軸の一目盛りが100kHzなので7.0MHz付近では1.4くらい7.2MHz付近では2.1を超えたくらいだとわかる。ただし、前述の通りアンテナの実際のSWRよりは多少良い値を表示している。
バンド変更
キャリブレーションを50kHz~30MHzの範囲で実施したので、HF帯なら測定周波数範囲を変更するだけでよい。例えば、21MHz帯で使いたいならSTIMULUSでスタート周波数とストップ周波数を「21M」と「21.1M」のように希望の範囲に設定する(または、センタ周波数とスパンで設定する)。
50MHz帯や144MHz帯、あるいは、430MHz帯などで使うなら、その周波数でキャリブレーションから行えばOK。キャリブレーションしたものを保存しておけば、それを呼び出すだけで使える(念のため、ロードだけでも正しく表示されることを確認するのが良いとは思うが)。
保存データの呼出し
キャリブレーションして保存したものを呼び出すには、「RECALL」をタップする。
保存したものの一覧が表示される。ボタンの内容は周波数範囲。
今回の手順で保存したものは50kHz~30MHzの範囲のものなので「50kHz 30MHz」のボタンをタップすると読み出せる。
先程のアンテナをつないだままなので、同軸ケーブルによって位相が回っている様子がよく分かる。
この他、マーカの使い方とか、グラフの軸の変更、グラフ自体の変更など色々あるが、きりがないのでここでは基本的なことだけで。トランジスタ技術2022年7月号に基本的な操作方法などを書いたので、近くにあれば参考にどうぞ。
コメント
いつも大へん参考に、楽しく拝見致しております。
データファイル(SWR-HF.㎈)を使わして頂きたくmicroSDカード(Windowsフォーマット)に書き込んでNanoVNA-H4にセットして、SD CARDをタッチしても次の画面(写真添付)でLOADボタンが出てきません。アドバイス戴きたく宜しくお願い致します。
NanoVNA-H4 HW Ver.43‗MS Ver:1.2.14
おそらくファームウェアが古いのでしょう。アップデートしてみてください。