
概要・背景
オペアンプを使ったちょっとした実験を行うのに、正負電源があれば便利だなと思って作ったものです。お手軽さ優先で、電源の供給元はモバイルバッテリです。
- 入力
- +5V(モバイルバッテリを想定)
- 出力
- ±5V
- 最大200mA(ただし、最大電流に近づくと負電圧の電圧降下が大きくなる(詳細は後述))
- サイズ: 約49x43x19mm(突起物は含まず)
本機の回路は、「MNHA05 – モバイルバッテリで動かすA47式ヘッドフォンアンプ」の電源部と同じです。それを抜き出して単独の装置にすれば、手軽な正負電源として使えそうだという発想で生まれたものです(部品定数はMNHA05とは少し変えています)。
実力(負荷テスト)
本装置では、チャージポンプIC LM2776で負電源を作っています。このICは、入力された電圧に対して、そのマイナスの電圧を作り出してくれます。ちなみに、対応電圧は+2.7~+5.5V。+3Vを入力すれば-3Vが、+5Vを入力すれば-5Vが得られます。出力電流は最大200mAという仕様です。

では、実際のところどうなのか?出力端子にダミーロード(抵抗)を付けてオシロスコープで見てみました。

40mA
ダミーロードの抵抗値は120Ω(正電圧側、負電圧側共。以下、同様)。5Vなら42mAほど流れることになります。
まず、正電圧側。

CH1(上)が入力、CH2(下)が出力です。
入力電圧(平均値)は約5.19V。リプルは約33mVpp、周波数は約560kHzです。
出力電圧(平均値)は約5.05V。リプルは数字上は3.2mVppですが、入力のリプルに応じた変化としては見えず、リプルと言うよりも何らかのノイズを拾っているのかもしれないという状況です。
こちらの記事も参考に。
続いて負電圧側。

負電圧側もリプルは見えません。
電圧は-4.95V。正電圧が5.05Vでしたので、絶対値の差は約0.1Vです。なかなか良いのではないでしょうか?
100mA
負荷を重くしてみます。51Ωの抵抗を使いますので、計算上は約100mA流れます。
まずは、正電源。

出力のノイズは特段増えてはいないようです。出力電圧は4.90V。40mVの場合と比べて0.15V程度、電圧が降下しています。
続いて負電圧。

出力電圧は-4.70V。正電圧との出力電圧の絶対値の差は0.2V程です。
200mA
24Ωの抵抗を使います。5Vだと計算上は208mAになります。
正電圧側。

入力側(モバイルバッテリからの出力)のノイズが増えたためか、出力へのノイズが少し増えています。出力電圧は4.78V。
負電圧側。

こちらも出力のノイズが少し増えています。出力電圧は-4.36V。この電圧だと、24Ωだと182mAということになります。ICの定格が最大200mAですので、ほぼ上限値です。
正電圧との出力電圧の絶対値の差は0.4V程です。
40mA未満はリプルが増える
負電圧用のチャージポンプIC LM2776は、出力電流が40mA未満だとチャージポンプのスイッチング周波数を下げます。ノイズの点から見ると、リプルの周波数が低くなり、本機のような簡単なLCフィルタではノイズを落とすことができません。
負荷抵抗が240Ω(電流は約21mA)の場合が下の図です。正電圧と負電圧を一緒に表示しています。

リプルの周波数は約660Hz、リプルは約38mVです。この影響で正電圧側にもリプルが現れています(約18mV)。
もう一つ。470Ω(約11mA)の場合。

リプルの周波数は約540Hz、リプルは約43mVです。正電圧側にもリプルは約18mV。
ついでに無負荷の場合(負荷はLEDだけ)。

リプルの周波数は約6Hz、リプルは約46mVです。正電圧側はスパイク状のノイズになっており、約18mVです。
リプルが気になる用途の場合は、負電圧側にダミーの抵抗をパラにかませて40mA以上になるようにしたほうが良さそうです。
使い方
使用方法は特段悩むところはないと思います。
背面のDCジャック(2.1/5.5mm、センタプラス)にモバイルバッテリからの電源をつなぎます。電源スイッチは側面パネルにあります。

出力は前面パネルにあります。スクリューターミナル、上からネジを回してワイヤを固定します。天板に印字してあるとおり、左が-5V、真ん中がGND、右が+5Vです。LEDは正負電圧のモニタを兼ねています。

製作編
いきなり組み立てずに、一度、全体を通してご覧ください。流れを把握しておくと作業がスムーズだと思います。
回路図と部品表
回路図と部品表はPDFで用意しております。
基板の分割
まず、基板を分割します。手で曲げれば簡単に折れるのですが、今回の基板は設計をミスってしまい、手で折ると天板の小さな角穴が欠けてしまいそうでしたので、予めカットしておきました(底板は問題なかったのですが、ついでにカットしておきました)。他の基板は手で曲げて分割して大丈夫です。

分割したら、バリをヤスリで落とします。長いバリはニッパ(使い古したものや百円均一のものなど)で切り取るとヤスリがけが少なくて楽です。ただし、くれぐれも必要な出っ張りを誤って切ったり削ったりしないよう注意してください。
また、小さい基板はおまけです。SOP-8(SOIC-8)のオペアンプをDIP化したい場合にご利用ください。土地が余ったので付けたものです。本機では使いません。
ケース仮組み
仮組みして上手くはまることを確認します。とはいえ、中身が空の状態では、箱状に組み立てるのは結構難しいです。それぞれの穴と突起が上手く嵌合することを確認すれば大丈夫です。

差し込みがきつい場合は、突起の角をヤスリで軽く削ってください。製造上、穴の角は丸くなるので突起が入りにくいことがあります。

部品実装
本機はすべての部品を自分でハンダ付けします。部品点数は多くはないですし、実装もさほど密ではないので比較的簡単だと思います。
まず、チップ部品に関してです。
下の写真で左がフェライトビーズです。色はほぼ黒です。真ん中はインダクタ。右は抵抗です。抵抗は値が印字されていますし、本装置では一種類しかありませんので簡単にわかると思います。

続いてコンデンサ。こちらは茶色です。数が一番多いものが100nF(0.1μF)、少ないのが1μFです。サイズが大きいものが10μFです。

黒いパッケージに入っているのがICとポリフューズです。ICは足が6本あります(左)。ポリフューズは抵抗に似た外観です(右)。

LEDは左が+です(二つとも)。ICは三角マークがある足が1ピンです。IC自体は非常に見づらいですが、「2776」と正しく読める向きで左下が1ピンです。

スイッチの底面にはテープを貼っています。本来ならスイッチの下には配線パターンを這わせないようにすべきなのですが、うっかり、配線を引いてしまいました。通常の使用では問題は起きないと思いますが、念のため、絶縁目的でテープを貼りましたので、はがさずにこのまま取り付けてください。もし、テープがはがれてしまった場合は、適当な紙などを挟んでおくと良いかもしれません。

LEDは下の写真のように90度曲げて取り付けます。参考として寸法を入れておきますが、取り付けたあとで多少は調整できますので、シビアに考えすぎなくて大丈夫です。

下の写真が、一通り実装した状態です。

スクリューターミナル、スライドスイッチ、DCジャックの足も短く切ってください。切らないと底板に当たって閉まりません(スペーサの高さは2mmです)。

動作確認
基板が組み上がったら、一度動作チェックを行ないます。
その前に、今一度、部品の付け間違いやハンダ不良などがないかよくチェックしてください。
問題がなければ、モバイルバッテリをつないで電源を入れます。LEDが二つとも点灯するはずです。

LEDが点灯しなければ、直ぐに電源を切って、もう一度、部品の取り付けやはんだ付けにミスがないかよくチェックしてください。トラブルのほとんどはこれです。部品自体のトラブルもまったくないわけではありませんが、ほぼありません。
LEDが点灯したら、正電圧、負電圧を確認してください。無負荷なら、それぞれ、約+5Vと約-5Vが出ているはずです。
モバイルバッテリ自動電源断対策
通常のモバイルバッテリですと、電流が規定値を下回ると電源が切れるようになっています。充電器として使うのならそれでいいのですが、一般的な電源として使うときには「勝手に電源が切れる」という問題になります。いくつかのモバイルバッテリを調べてみたところ、概ね80mAほど流しておけば電源遮断は回避できるようです。
そこで、本装置では、二つの対策を取れるようにしています。
- 常時、一定電流を流す(80mA程度)ように抵抗を取り付ける
- 間欠的に大きな電流を流すモジュールを取り付ける
常時電流方式
R1とR2に120Ωを実装します。二本パラで60Ωですので、5Vでは約80mA流れます。

この方法は手軽ですが、常時80mAもの電流が流れてしまうこと(大食い)がデメリットです。
また、モバイルバッテリによっては80mAでは電源を切ってしまうものがあるかもしれません。その場合はもっと電流を流すように抵抗値を調整してください。ただし、抵抗の耐電力に注意してください。120Ωなら1/4Wタイプで大丈夫ですが、100Ωだと250mAですので、1/4Wタイプでは余裕がありません(1/2Wタイプを使ってください)。
間欠電流方式
80mAもの大電流を常時流し続けるのはあまりにももったいないので、間欠的に短時間だけ流そうという方式です。モバイルバッテリの自動電源断動作には一定の余裕時間がありますので、その時間内に一瞬の大電流を流すことで自動電源断動作を回避します。
この動作を行う装置をモジュールとして用意しており(下記記事参照)、本機にはこれを内蔵できるようにしています。
通常は5VのACアダプタで使用し、たまにモバイルバッテリで使うなら、外付けUSBアダプタタイプの電源断回避装置を使うのも手です。
このモジュールを取り付ける場合は、まず、G1、G2、G3、それにR1(スイッチ寄りのランド)にスズメッキ線(コンデンサの足の切れ端でOK)を立てます。


そこにモジュールを取り付けます。スイッチに当たらないように浮かせます(下の写真では傾いてしまっていますが…)。

なお、本機は内部の高さが低いので、ピンソケット/ピンヘッダは使えません(天板が閉まらなくなります)。
ケース組立て
この順番通りでなければダメというものでもありません。ご自分のやりやすい方法で構いません。ここで示した順序は一例とお考えください。
まず、底板にビス(長い方)を通します。

適当な板を当てがいます。ケースの天板を使うのが手っ取り早いです。

この状態でビスが上に向くようにひっくり返して置き、スペーサを取り付けます。

部品を実装した基板を乗せます。底板には前後の区別はありませんので気にしなくて大丈夫です。基板を載せたら、スタンドオフを締めます。スタンドオフが外れない程度に軽く締めるだけでOKです。

前面パネルをはめ込みます。LEDの出具合もこのときに調整します。

残りのパネルを立て、スタンドオフを締めます(底のネジを締めます)。プラネジですので締め付けすぎないでください。

あとは天板を被せてビスで締めます。

最後に、好みで底板にゴム足を貼り付けます。
頒布
- 部品の調達の都合上、上の写真とは異なる場合があります。ネジ類も同様です。
- コストダウンのため、ほとんどの部品は海外通販で調達しています(電解コンデンサは国産品)。
- 基板に若干の色ムラがあることがあります。格安基板製造サービスを利用しているため、ある程度は仕方ないようです(ひどい場合は作り直してもらっていますが、ゼロにはならないみたいです)。より高品質な製造サービスならきれいに仕上がるかもしれませんが、コストが大幅に上ってしまいます。ご了承下さい。
- 本機のマニュアルは当ページがすべてです。紙媒体はありません。また、本機は電子工作の経験がある程度ある方を対象としております。抵抗のカラーコードやコンデンサの値の読み方など、基本的なところの説明はしていません。電子工作の基本については、こちらのページに参考になりそうなサイトなどをまとめてあります。
- 資源の有効活用のため、梱包材は再利用することがあります。ご了承ください。
- 仕様や頒布価格は予告なく変更することがあります。
- 本機の組立てや使用による怪我・事故等には責任を負いません。
【価格】
- 頒布価格: 1,400円
- オプション
- MBHT01 モバイルバッテリ自動電源断回避モジュール: 500円
- USB電源ケーブル: 120円
- 送料: 230円
- 支払い方法: 銀行振込
オプションのUSB電源ケーブルはこちらです(入手時期によって多少変ります)。モバイルバッテリとの接続に使えます。必要に応じてどうぞ。

それから、3Pのワンタッチターミナルの手持ちがあるので、これをおまけで付けます。スクリューターミナルだと付け外しが面倒なので。

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