
概要・背景
自作ヘッドフォンアンプの定番の「A47式」を、MNHA04と同様に「モバイルバッテリで動かす」のコンセプトで組んだものです。
A47式ヘッドフォンアンプ
A47式ヘッドフォンアンプについて解説記事や製作例は、検索すればたくさんの情報が見つかります。逆に、情報がありすぎて原典を探すのが難しいため、ここではそうした情報をまとめておきます。
このヘッドフォンアンプは、オペアンプを使ったシンプルなもので、2回路オペアンプのうちの一つを電流ブーストに使っているのが特徴。大本(おおもと)は、バーブラウンのアプリケーションノートにある回路で、以下のような構成です(アプリケーションノートから引用)。

これをベースにした製作例を、DIY WorkshopというフォーラムにAphearedという方(そのフォーラムでのユーザ名)が投稿したそうです。「A47式」と呼ばれるようになったのは、Aphearedさんの頭文字のAと、ミックス用の抵抗に(51Ωではなく)47Ωを使ったことがその理由のようです(なので、本人が付けた名前ではない)。
その投稿のまとめ記事はこちらにあります。
本機の特徴
本機はヘッドフォンアンプとしてはA47式そのものです。「オペアンプを交換して楽しむ」、というのもA47式の遊び方の一つです。一方、「モバイルバッテリで動かす」というコンセプトにしていますので、電圧を単純に分割すれば±2.5Vになってしまい、使えるオペアンプが限られてしまいます。
そこで、本機ではチャージポンプ式の電圧コンバータを用いて負電源を作り、±5Vの電源を実現しています。これなら利用できるオペアンプの幅が(それなりに)広がります。
- 音量調整ボリュームなし
- 可変抵抗による音質劣化やギャングエラーとは無縁
- 音量調整は再生装置(スマートフォンなど)で行う
- オペアンプ交換可能
- サイズ: 約50x50x21mm(突起物は含まず)
本機は組み立てキットですが、チップ部品はあらかじめ実装済みです。自分で取り付けるのはジャック類や電解コンデンサなどの大きめものだけです。


また、モバイルバッテリ自動電源断回避モジュールを内蔵できます。これによって、モバイルバッテリの電源が勝手に切れてしまうことを阻止できます。
使い方

本装置の他に、以下のものが必要です。
- 音楽再生装置(スマートフォンなど)
- 音楽再生装置と本装置をつなぐケーブル(本装置の入力端子は3.5mmステレオジャック)
- 5Vの電源(モバイルバッテリなど)
- 電源と本装置をつなぐ電源ケーブル(本装置の電源端子は、2.1/5.5mmの一般的なもの)
- ヘッドフォン、または、イヤフォン
背面に電源端子があります。

本装置の電源電圧の定格は5Vです。12Vや13.8Vの電源をつながないでください(そのような電圧をかけると壊れます)。
正面は、左が信号入力、右がヘッドフォン端子(3.5mmステレオジャック)です。電源パイロットランプは-5Vで点灯させており、負電圧が出ていることのモニタを兼ねています。

電源スイッチは左側面にあります。

上に書いたように、ボリュームはありません。音量は再生装置で調整してください。
回路構成
アンプ部
アンプ部の回路を下図に示します。上にも書いたように、A47式そのものです。

増幅率は2倍です。元々、音源装置(スマートフォンなど)で充分な音量が得られているはずですので、本装置では増幅機能は求めません。ヘッドフォンのドライブ(電流供給)が主目的です。増幅率を上げると出力オフセット電圧が増えるというデメリットもありますので、増幅率は小さく抑えています。
バイアス電流の逃げ道の抵抗R5は、定石通りR7とR9のパラの値に合わせています(もう一方のchも同様)。R5を調整することで出力に現れるオフセット電圧を小さくできる可能性があります。詳細は製作編をご覧ください。
また、これも上述のとおり、本機には音量調整の可変抵抗は付けていません。使用形態を考えると、再生装置に音量調整は付いているでしょうから、そちらを使うことにします。回路を小さくまとめるために割り切りました。見方を変えれば、可変抵抗による音質の劣化やギャングエラーの悩みからは開放されるという利点もあります。
電源部
負電源とノイズフィルタ

負電圧生成用のチャージポンプIC(LM2776)で-5Vを作っています。正電圧は外部電源(モバイルバッテリ)を直接使いますが、ノイズフィルタを入れています(負電源側と同じ)。
電源のパイロットランプは負電源で点灯させています。負電源回路の動作の簡易モニタを兼ねています。
モバイルバッテリのオートパワーオフ対策
モバイルバッテリは電流が一定の値を下回ったら電源の供給をストップします。スマートフォンの充電などではそれでよいのですが、ヘッドフォンアンプのように消費電流が小さな装置だと動作中に勝手に電源が切れることになってしまいます
この問題を回避するために、常時、一定電流を流す抵抗を付けられるようにています。回路図上のスイッチのそばのR2とR3がそれです(通常は実装しないのでバツ印を付けてあります)。120Ωを2本、並列ですので60Ωで、80mA強が流れます。この程度流しておけば、オートパワーオフを回避できるようです(ただし、モバイルバッテリによるので、これでも切れるものもあるかもしれません)。
また、間欠動作で大きな電流を流す「モバイルバッテリ電源断回避モジュール」を内蔵できるようにもしています。詳細は製作編をご覧ください。
この「モバイルバッテリ電源断回避モジュール」は便利ですが、両刃の剣でもあります。動作時に大電流(約6秒ごとに約0.4秒間、80mA程度)が流れるため、モバイルバッテリの内部抵抗やUSBケーブルの抵抗によって電圧降下が生じてしまいます。つまり、電源電圧が変動してしまうのです。一般的に、オペアンプの電源電圧変動除去能力は高いので問題にはならないとは思いますが、オーディオ機器としては気持ちの悪さはあります。
最近は消費電流が小さい装置にも対応できる「低電流モード」を備えたモバイルバッテリもいろいろと出回っています。そうしたモバイルバッテリなら、このような「電気の無駄遣い回路」は不要です(上記「回避モジュール」も不要なので、電源電圧の変動問題も起きない)。もし、新たに調達するなら、低電流モードを持ったモデルを選択するのが良いと思います。ちなみに、私は、こちらを使っています。
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製作編
いきなり組み立てずに、一度、全体を通してご覧ください。流れを把握しておくと作業がスムーズだと思います。
回路図と部品表
回路図と部品表はPDFで用意しております。
基板の分割
基板を分割し(手で曲げれば簡単に折れます)、バリをヤスリで落とします。長いバリはニッパ(使い古したものや百円均一のものなど)で切り取るとヤスリがけが少なくて楽です。ただし、くれぐれも必要な出っ張りを誤って切ったり削ったりしないよう注意してください。

ヤスリがけを少なくするために接続部分を非常に細くしているため、輸送(輸入)時に基板が割れて(分割されて)しまっていることがあります。どのみち分割して使うものですので、製作・動作には問題ありません。ご了承ください。
削った後は粉を拭き取ってください。これまでの経験では、拭き取りよりも丸ごと水洗いするのが楽です。
それから、小さな基板はおまけです。「土地」が余ったので作りました。SOP8(SOIC8)のDIP8化基板です。SOP8のオペアンプを使いたいときにご利用下さい。
ケース仮組み
仮組みして上手くはまることを確認します。とはいえ、中身が空の状態では、箱状に組み立てるのは結構難しいです。それぞれの穴と突起が上手く嵌合することを確認すれば大丈夫です。

差し込みがきつい場合は、突起の角をヤスリで軽く削ってください。製造上、穴の角は丸くなるので突起が入りにくいことがあります。

また、奥まで差し込めず、隙間が出てきてしまう場合は、突起の付け根を直角に削ってください。これも製造の都合で丸くなってしまうためです。
なお、基板には多少の反りがあることもあるので、完全にピッタリにとは限りません。ご了承ください。
下の写真のように90度曲げて実装します。実装後に微調整可能ですので、あまり神経質にならなくて大丈夫です(実際、下の写真では横方向は1mmより長いです(多分、2mmくらい))。パネルを仮に当てて確認すると良いと思います。

動作確認
部品の取り付けが終わったら、今一度、部品の付け忘れ、付け間違い、向きの間違い、ハンダ忘れ、ハンダブリッジがないかチェックしてください。また、電源とGNDがショートしていなことも確認します(チェック時には電源スイッチを入れ忘れないように)。
電源電圧
最初に、オペアンプを挿し込まない状態で電源を入れます。下の写真のようにLEDが点灯するはずです。点灯しなければ何らかの問題があります。直ぐに電源を切ってハンダ付け等を確認してください。

また、上の写真のように、GNDに対して、オペアンプの4番ピンに-5V、8番ピンに+5Vが来ているはずです。
出力オフセット電圧
電圧の確認ができたら、一旦、電源を切り、オペアンプを挿します。なお、キットにはオペアンプは含まれません。好みのものをご用意下さい。

電源を入れて、出力オフセット電圧を測定します(上の写真は電源を入れていませんが、測定時はもちろん電源を入れます)。下の写真のGNDとTP1の間の電圧が±数mV以下に収まっていることを確認します。TP2も同様です。
ヘッドフォンアンプの出力オフセット電圧に関しては、こちらの記事も参考にどうぞ。
音出し
前面のline inに適当な信号源をつなぎ、電源を入れてヘッドフォン(またはイヤフォン)から音が出ることを確認します。
動作しない場合は、繰り返しの容易なりますが、問題の原因の大半は、次の三つです。
- 部品の付け間違い(向きの間違い)
- ハンダ不良
- ハンダブリッジ(ハンダくずの貼り付き)
ルーペなどを使ってじっくりと、焦らず落ち着いてチェックしてください。
モバイルバッテリ自動電源断対策
上に書いたように、通常のモバイルバッテリは流れる電流が少ないと自動で電源をオフにしてしまいます。その対策として、本機では二つの対策が取れるようにしています。
- 常時、一定電流を流す(80mA程度)ように抵抗を取り付ける
- 間欠的に大きな電流を流すモジュールを取り付ける
低電流モードを持ったモバイルバッテリならこのような問題はありませんが、通常のモバイルバッテリを使用する場合にはどちらかの対策を行ってください。
常時電流方式
R2とR3に抵抗を付けられるようにしています。120Ωを2パラで60Ω。これで約80mA流れます。

モバイルバッテリによっては80mAでは電源断してしまうかもしれません。その場合は抵抗値を下げてください。ただし、100Ωだと消費電力は250mWになりますので、(余裕を見て)1/2Wのものを使用してください。
なお、この方式は常時80mA(あるいはそれ以上)の無駄な電力を消費してしまいます。
間欠電流方式
常時電流方式だとヘッドフォンアンプ自体よりも大きな電力を無駄に消費してしまうのは、どう考えても無駄すぎます。モバイルバッテリは、電流が流れなくなってもすぐに電源を切るわけではないので、時々大きな電流を流してやればOKです。
それを行うモジュールをオプションで用意しています(モジュール自体は完成品です)。それを取り付けた様子が下の写真です。

このモジュールでは約6秒ごとに0.4秒ほど大きめの電流を流します。デフォルトで80mA、ジャンパの設定で120mA、160mAにすることもできます。
このモジュールを取り付けるには、まず、所定の位置にピンソケットを立てます(四本)。できるだけ垂直に取り付けてください。なお、これを取り付けるなら、周りの高い部品(3.5mmジャックやDCジャック、電解コンデンサ)よりも先につけたほうがやりやすいと思います(ここでは説明の都合上、後で付けていますが)。

続いて、そのピンソケットにピンヘッダを差し込みます。ピンヘッダの金属は四角ですので、入る向きがあります。そのため、この段階で差し込みます。

わかりやすいように黄色のものを使っていますが、頒布品では色は不定です(ピンソケットの色も)。
ピンヘッダにモジュールを差し込んでハンダ付けします。非常に差し込みづらいですが、ピンセットなどを使ってなんとか入れてください。

モジュールの詳細に関してはこちらをご覧ください。
ケース組立て
この順番通りでなければダメというものでもありません。ご自分のやりやすい方法で構いません。ここで示した順序は一例とお考えください。
まず、回路基板に前面パネルを取り付けます。3.5mmジャックのネジは軽く締めておきます(強く締めすぎないこと)。LEDの出具合も調整します。

続いて、底板にビス(長い方)を通します。

裏に適当な板を当てがいます。ケースの天板を使うのが手っ取り早いです。

この状態でビスが上に向くようにひっくり返して置き、スペーサを取り付けます。

部品を実装した基板を載せます。底板は前後左右の区別はありません。基板を載せたらスタンドオフを締めます。少し緩めに締めておきます。

背面とスイッチ側のパネルを滑り込ませるように取り付けて、ネジを締めます(プラネジですので締め付けすぎないでください)。

残りのパネルを立てます。

あとは天板を載せてビスで締めます。天板の向きは印字を参考にします(穴自体は前後左右の区別なく入りますので気をつけて下さい)。

3.5mmジャックのネジも少し増締めしておいてください。
これで完成です。好みで底に市販のゴム足を貼り付けてください。ただし、持ち運ぶことが多いようでしたら、貼り付けたゴム足はズレたりはがれたりしがちだと思いますので、その点には注意してください。
補足
SOP8、DIP化基板
おまけで付けている小さな基板を使うと、SOP8のオペアンプをDIP8化できます。

SOP8のパッドは白丸が付いているピンが1です。
ピンヘッダは、「細ピンヘッダ」か「丸ピンIC用連結ソケット」を使ってください。通常のピンヘッダだと太すぎて丸ピンICには挿せません。
どちらでも丸ピンICソケットに挿すことはできますが、強いて言えば「丸ピンIC用連結ソケット」のほうが気持ちよく挿せる気がします。その分、値段がずっと高いです。
バイアス電圧調整
オペアンプの入力バイアスの逃げ道の抵抗(R5、R6)の値を調整すると、出力バイアス電圧を小さくできる可能性があります。

とはいえ、組み立てたあとでこのR5やR6を交換するのは大変なので、基板の裏にもR5とR6のパッドを設けています。

もし、これを利用する場合は、組立て前に基板の表のR5とR6を取り外しておいてください。パッドは2012Mサイズです。表のR5とR6を外した場合は、裏にR5とR6を付けるのを忘れないように。
※このように設計していますが、動作は未確認です。悪しからず。
コンデンサ交換
音質改善(変化?)の改造として定番はコンデンサの交換です。本機では正負の電源用にそれぞれ1,000μFのアルミ電解コンデンサ(C8、C9)を載せています。極一般的なものを使っていますので、これを交換すると音が変わるかもしれません。ここに実装できるのは、直径10mmまで、高さは13mm程度までです。耐圧は6.3V以上のものを使ってください。オーディオ用のコンデンサは大柄なものが多いので難しいかもしれませんが、OSコンなどなら載ると思います。

また、オペアンプの電源端子のそばのパスコン(C14、C15、C16、C17)は100nF(0.1μF)の積層セラミックコンデンサを使っています。これを積層フィルムコンデンサにするのも良いかもしれません。パッドのサイズは2012M(0805)です。これらのコンデンサは組立てたあとで交換するのは難しいかもしれません。やるなら実装前、最初の段階だと楽だと思います(が、それでは音質の変化を楽しむことにはならないですけど…)。
頒布
- 部品の調達の都合上、上の写真とは異なる場合があります。ネジ類も同様です。
- コストダウンのため、ほとんどの部品は海外通販で調達しています(電解コンデンサは国産品)。
- 基板に若干の色ムラがあることがあります。格安基板製造サービスを利用しているため、ある程度は仕方ないようです(ひどい場合は作り直してもらっていますが、ゼロにはならないみたいです)。より高品質な製造サービスならきれいに仕上がるかもしれませんが、コストが大幅に上ってしまいます。ご了承下さい。
- 本機のマニュアルは当ページがすべてです。紙媒体はありません。また、本機は電子工作の経験がある程度ある方を対象としております。抵抗のカラーコードやコンデンサの値の読み方など、基本的なところの説明はしていません。電子工作の基本については、こちらのページに参考になりそうなサイトなどをまとめてあります。
- 資源の有効活用のため、梱包材は再利用することがあります。ご了承ください。
- 仕様や頒布価格は予告なく変更することがあります。
- 本機の組立てや使用による怪我・事故等には責任を負いません。
【価格】
- 頒布価格: 2,500円(オペアンプは好みのものをご用意下さい)
- オプション
- MBHT01 モバイルバッテリ自動電源断回避モジュール: 500円(ピンヘッダ付属)
- USB電源ケーブル: 120円
- (少ないながら手持ちのオペアンプも何種類か放出します。詳細は申込みフォームで)
- 送料: 280円
- 支払い方法: 銀行振込
オプションのUSB電源ケーブルはこちらです(入手時期によって多少変ります)。モバイルバッテリとの接続に使えます。必要に応じてどうぞ。

【申込みフォーム】
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