以前、フレキ基板で作ったものの改良版。
以前のものの課題
以前作ったものは、KD8CECさんが公開している回路をほぼそのまま作った。前後してKD8CECさんはリセット回路を省略する回路(外から引っ張ってくる)を公開したが、私が作ったものはリセット回路を自前で持つ当初のもの(この方が部品は増えるが本体との配線は少ない)。
この方法での課題はHFの感度が低いこと。そのために、本体の改造(一部部品の削除)が推奨されている。また、AliExpressなどで売られている基板ではLとCの交換部品が付いているものもある。
また、FM放送による相互変調も結構ひどい。外部にLPFを付ければ避けられるが、付けるのが面倒だし、当然、FM放送の受信感度は落ちる(FM放送受信時は外す)。
UV-K5の回路図を確認
そももそもUV-K5のこのあたりの回路はどうなっているのか?幸い、ハードウェアリバースエンジニアリング完全版が公開されたので手軽に調べられる。
FM放送受信時は、アンテナから入った受信信号は赤のラインで流れて行くはず(FM_SIG)。
アンテナ端子の直ぐ側にあるL4(4.7nH)や(上の図の出口の)C193の10nFでFM放送の信号はだいぶ弱くなってしまうはず。そのため、プリアンプ(Q1周辺)でレベルを持ち上げてからラジオチップ(BK1080)に入っている(のだろうと思う)。
L4でFM放送ですら弱くなってしまうということは、HFの信号はものすごく弱くなってしまう。さらに、プリアンプの入口はC23の47pFなので、HFではインピーダンスが高い。AliExpressなどで売らているキットに入っているLとCはこれらを交換するもの。Lを大きくしてHFの減衰を減らし、Cも大きくしてHFを通りやすくするという狙いだろう。このあたりは、以前記事としてまとめた。
ただ、アンテナ端子の側のLいじったら送信信号の品質に影響しそうな気がするし、Cを交換してHFの減衰を小さくしたとしてもそもそもHFまで考慮したプリアンプじゃないだろうし。
また、FM放送による相互変調もこのプリアンプがかえって問題を起こしているのかも知れない。
回路検討
プリアンプは必要なのか?
GitHubにあるSI473xのいろいろな回路図を見てもプリアンプなどは入らずにアンテナを直結している。
手元にあるATS25 max-Decoderもこの構成。
ならば、プリアンプをスキップしてアンテナを直結してもいいのでは?アンテナ側のLによってHFの感度は落ちそうだけど、プリアンプを入れた状態でもあまり良くはないのでいっそ使わなくてもいいんじゃないか?
ただ、現状ではFM放送用にはあのプリアンプは大いに効いており、FMアンテナ入力端子(FMI)に何も接続しなくても、AMIからの漏れで充分にFM放送を受信できている(それくらい強いFM放送波がAMIに入力されているわけで、そりゃ相互変調を起こしてもしょうがないのではないかと)。
試しにSI4732のAMIに直接適当なアンテナを繋いでみたところ、HFはそれなりに受信できたし、FM放送はまるで受信できなくなった。また、ついでにプリアンプ部をスキップしてFM_SIGのラインをSI4372のAMIに直接つなぐのも試してみたところ、HFもまぁそれなりに受信できた。
HF用とFM放送用に信号を分ける
FM_SIGを直接SI4732のAMIにつなげはHFは受信できるのは良いが、FM放送が入らなくなるのは面白くない。
そこで、LPFとHPFを使って信号を二股に分けることにする(分波器)。それならFM放送による相互変調も避けられる。
QcusStudioのFilter sysnthesisツールを使ってLPFとHPFを設計。ざっくり、40MHzのLPFと、50MHzのHPF。定数を現実的なもの(入手できるもの)に調整してから、LPFとHPFを合体させる。
それぞれの通過帯域(目的周波数)の拡大図。
製作
回路設計
設計と言っても、基本は前と同じ。それぞれのアンテナ入力に上の分波器を取り付けるだけ。
入力部には念のためダイオードによるリミッタを付けておいた。
他は水晶とリセット回路(以前の回路と同じ)。
組立て
前回はJLCPCBのフレキ基板クーポンがあったのでそれで作ったが、クーポンなしだとフレキ基板は高いので普通のガラエポで。
板厚は0.6mm。市販品と同じようにSI4732の下はくり抜いて高さを下げる作戦。部品点数が多くなったので、R・L・Cは1608M(0603)、ダイオードも小型のSOD-123。いつも使っている部品より小さいし、狭いのでかなり大変。下の写真はR・L・C・Dを実装した状態。
SI4372は足を開いて実装する(基板の穴に落とし込む)。
元々のFMラジオチップがあった場所に取り付ける端子は、スルーホールで作っていたものを自分でカットした。はんだメッキされているのがわかる。
FM_SIGは、C23の47pFを外したところから取った。0.32mmのワイヤを使ったのだけど、相手が小さいだけに太すぎた。もっと細い線を使ったほうがやりやすそう。ワイヤ接続はこの一本だけ。
これで動作確認し、良さそうだったので、基板を固定(二か所の固定用パッドを使ってはんだ付け)。
ケースに収めるときは、スピーカのケーブルを挟み込まないように注意(細い棒を使ってスピーカケーブルを脇に寄せる)。
本当なら、分波器を組み上げたところで通過特性を測定すべきだろうけど、送信するわけじゃないから、それぞれそれなりに受信できているのでいいかなと。
受信
実際の受信の様子。
以前とだいたい同じ程度には受信できているように思う(Sメータの触れが少し弱いような気がしないでもないが)。相互変調の問題も起きない。
このときのアンテナは、こちらのループアンテナのアンプ付きの方。
別のアンテナをつなげは、もちろん、FM放送も受信できる(このループアンテナは500MHzまでということになっているが、実際にはFM放送は上手く受信できなかった)。
基板はたくさんあるのでハムフェアで頒布しようかな。実際のところ、これを組み立てるのは結構大変だけど、チャレンジャーが現れることを期待して。
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