概要・特徴
これは、1200MHz帯用の2/3λヘンテナを手軽に組み立てられるようにしたキットです。
- 高利得と言われている通常のヘンテナよりもさらに利得が高い
- 給電部にコネクタ(SMAメス)を使用しており、ケーブルの取り付けが簡単
- プリント基板を使用することによって、組立てが簡単
- 給電点の場所を本来の位置からずらすことで、アンテナの取付けが楽
- 無調整で再現性が良い(試作で7回程度作ってみた)
- 約10cmのセミリジッド同軸ケーブルがセットで、ハンディ機に直接取り付けられる
- 小型・軽量、かつ、ケーブルは取り外せてコンパクトに収納できる(ケーブルと合せても約30g)
なお、本機で採用しているセミリジッド同軸ケーブルはパイプではなく硬い網線を使用しています。自由に曲げることも可能です。写真のように、このケーブルでアンテナは自立できます。
2/3λヘンテナとは?
「ヘンテナ」は、アマチュア無線家の間では非常によく知られているアンテナの一つです。長辺λ/2、短辺λ/6が標準的なヘンテナのスタイルですが、様々なバリエーションがあり、その一つが2/3λヘンテナです。
2/3λヘンテナは、長辺が標準のものより長く2/3λ、短辺は標準と同じくλ/6が基準です。標準のヘンテナは給電エレメントを動かすことで調整しますが、2/3λヘンテナの場合はサイズそのものを変えなければならず、調整はやや面倒です。一方、2/3λヘンテナは帯域が広く、作りっぱなしの無調整でも実用的なところに収まってくれやすいという特徴があります。
こちらの記事で両者の比較を行っています。他バンドでのシミュレーションですが、興味があればご覧ください。
2/3λヘンテナはヘンテナのバリエーションとして生まれたものですが、左右のループの長さを計算すると結果的にそれぞれ1λになっています。ということは、動作としてはツインデルタループなどの双ループアンテナと同じではないかと思います。そのあたりは、こちらの記事にシミュレーション結果があります。
結果をざっくり言うと、2/3λヘンテナは、ツインデルタループアンテナと似た性能です。ツインデルタループの方がサイドがバッサリ切れ、利得もやや高いです。2/3λヘンテナはサイドの切れがあまいですが、見方によってはヌル点がなく使いやすいとも言えます。
また、本キットでは給電点は中央エレメントのセンタではなく、オフセットした位置になっています。これも、以前シミュレーションしたものがあります。
このアンテナを使用実績はこちらです。
シミュレーション
本アンテナを設計するにあたり、MMANAでシミュレーションを行いました。
自由空間
リアルグランド(地上高1m)
1200MHzは波長が短いため、地上高1mでも自由空間と同じような結果になるようです。
製作編
ここでは、本アンテナキットの組み立て方について記します。
寸法図
実寸のPDF図面(A4サイズ)はこちらです⇒ ダウンロード
印刷時の設定方法をいくつか例示しておきます。画像はクリックで拡大します。
・Chrome
「詳細設定」の「倍率」を「既定」にします。
・Acrobat Reader
「ページサイズ処理」で「実際のサイズ」を選択します。
この他のツールで印刷する場合も、これらに準じて適切に設定してください。また、印刷したら実際に寸法を測って確認してください。
【部品表】
部品名 | 詳細等 |
---|---|
基板 | 専用品 |
コネクタ | SMAメス |
ワイヤ | 2mmスズメッキ線、約500mm |
同軸ケーブル | セミリジッド、SMA オス-オス、約100mm |
組立て
基板のエッジがざらついているので、組み立ての前に軽くヤスリがけしておくと良いでしょう。
基板には表裏はありません。どちらも同じです(違いは印刷の有無だけです)。
ワイヤの成形
まずは、ワイヤをできるだけ真っ直ぐにします。少々歪んでいてもアンテナとしては問題ないですが、真っすぐの方が見た目が良いと思います。
【追記】 ワイヤを真っ直ぐにする簡単な方法は、一方を固定し、もう一方を電動ドリルでくわえて回すことです。
本当はしっかりした台に固定された万力でワイヤを固定するのが良いのでしょうが、あいにくそういう設備がないのとワイヤが比較的短いのでプライヤで掴んでお茶を濁しました。あまりしっかり固定できていないので仕上がりの真っ直ぐさがいまいちですが、やらないよりは遥かに良くなりました。
副作用として、ワイヤがとても硬くなります(ワイヤというよりも棒という感じ)。硬くなると曲げるときに歪みづらく、一石二鳥です。
続いて、実寸図面に合せてワイヤを成形します。コネクタ側のワイヤは後で切断すれば良いので長めで大丈夫です(ピッタリで始めようとすると難しい)。ワイヤは手で曲げられます。もし、ペンチなどで挟んで曲げる場合は、ペンチ側にビニルテープを巻いておくと傷が付かなくて良いでしょう(ラジオペンチのように先が細いものではなく、電工ペンチやプライヤなどの方がしっかり掴みやすいと思います)。
カットの際は、割と太いワイヤなのでニッパよりもペンチなどの刃の部分の方が切りやすいと思います。
可能な限り図面(型紙)に合せてください。これがこのアンテナの調整です。エッジはやや緩やかなカーブで大丈夫です。下の写真を参考にしてください。
上側のセンタの位置には、マジックで印を付けておくと良いと思います。
また、他の方からもアイデアもいただきました。とてもきれいに仕上がっています。詳しくは、こちらに掲載しています。
取付け
このアンテナでは割と太めのスズメッキ線を使うので、太めのハンダゴテを使ってください。コテ先が細過ぎると熱を奪われて上手くハンダ付けできません。
私は、白光のFX-600というハンダゴテに、「T18-S3」というコテ先を付けています。幅は5mm以上あるかなり太いものです(上の写真のSMAコネクタと比べてください)。これくらい太いと、Mコネのハンダ付けも楽です。アマチュア無線をやるなら、こういう太いハンダゴテ(コテ先)を持っておくと良いと思います。
なお、本アンテナはこんなに太いコテ先でなくても作れます。が、太い方が楽です。
コネクタのハンダ付け
最初にコネクタをハンダ付けします。
ここでは、コネクタを先に裏から固定する方法で説明します。表から固定しても構わないと思いますが、その場合は、コネクタの足の近くにハンダを盛り過ぎないように注意してください(ワイヤの取り付け時に邪魔にならないように)。
まず、基板を裏返してコネクタを所定に位置に取り付けます。左右の位置を慎重に確認し、片側だけハンダ付けします。
一旦、基板を表にします。
位置がずれてショートしていないか確認します。もしずれていたらハンダを溶かして位置を調整します。OKなら、再び裏返して、もう片方の足もハンダ付けします。
ループエレメントのハンダ付け
成形したエレメントを取り付けます。
センタを合せ、コネクタ側の端が余っていたらカットします。
できるだけピッタリにカットするのが望ましいですが、少しの隙間ならハンダで埋められます。
では、ハンダ付けします。
センタを合せて固定します。基板の銅箔パターンはワイヤよりも太く設計しています。ワイヤは中心に置けばOKですが、どちらかといえば内側に配置するような気持ちにしてください。
ここでは手近にあったクリップを使って固定しました。木製の洗濯バサミが良いかもしれません(持っていないので未確認ですが)。
クリップで隠れていない部分をハンダ付けし、クリップを外して残りの部分をハンダ付けします。ワイヤも基板もクリップも熱くなっています。ヤケドに注意してください。
同様に、コネクタ側もハンダ付けします。
コネクタの足と共にハンダ付けします。センタピンとショートしていないことを確認します。
センタピンを基板にハンダ付けしておきます。
ここではクリップを使って仮固定しましたが、他の方法でももちろん構いません。良い方法があれば教えてください。
センタエレメントのハンダ付け
現物に合せてセンタ用のエレメントを切り出して取り付けます。
最後に、今一度、ショートしていないことを確認します。ルーペを使ってしっかり目視してください。アンテナの構造上、テスタではチェックできません(直流的にはショートしていますので)。
念のため、裏もショートしていないか(ハンダブリッジしていないか)確認しておきます。
特性確認
このアンテナは調整個所はありませんが、念のため、特性を確認しておきます。
ここでは、N1201SAというアンテナアナライザを使いました。同軸ケーブルを取付けてその先端、つまり、アンテナの根元でキャリブレーションを行っています。N1201SAやキャリブレーションについてはこちらを参照してください。
- VSWR: 1295MHz(呼出周波数)
- VSWR: 1260MHz(バンドエッジ)
- VSWR: 1300MHz(バンドエッジ)
- R
- X
- |Z|
バンド全体でVSWRは1.5以下に収まっています。
なお、これは一例です。寸法通りに作ればこれに似た特性になるとは思いますが、一台一台違います。
また、周りの影響も受けます。手を近づけたりしても大きく変化します。下はアンテナアナライザを手で持ったときのVSWRのグラフです。
ハンディ機を手で持ったときは。おそらくこれに近い状態だと思います。
【追記】 ハムフェア2022での再頒布に向けて改めて1セット作り特性をチェックしました。ワイヤはドリルでよじって真っ直ぐにしたものです。ワイヤが固くなったので曲げやすくなりました(へんに歪みにくい)。下の写真がそれですが、中古のワイヤを使ったため歪みが取り切れていません(2022年の金属高騰でスズメッキ線の値段が二倍くらいになりました。そのため、新品のワイヤを使うのはもったいなかったのです…)。
今回の測定ではLiteVNAを使いました。グラフは、黄がSWR(0.1/div)、青がレジスタンス(25Ω/div)、赤がリアクタンス(25Ω/div、縦軸中央が0Ω)です。
マーカ1から4がアマチュアバンド(1260~1300MHz)、3がメインチャネル(1295MHz)です。バンド内はSWR 1.5以下に収まっています。1280MHz辺りが共振点(リアクタンスが0Ω)で、その付近でのレジタンスがやや低めという状況です。短辺側を広げればレジスタンスは上がりますので、その分、長辺側を狭めればSWRはもっと追い込めるだろうと思います。
しかしながら、人体が近づいたりすると変化しますので、細かく追い込んでもあまり意味がないようにも思います。型紙に合わせて作るだけでこの程度の再現性が得られます。
FAQ
ワイヤを上手く曲げるコツは?
ワイヤ曲げにはいくつかの方法が考えられます。
- 手で曲げる
- ペンチなどで掴んで曲げる
- 細いものに巻き付ける
手で曲げるのは簡単ですが、思った位置で曲げるのがやや難しいように感じます。また、カーブが緩やか過ぎにになりがちです。
ペンチ等で掴み、そこを支点にして曲げる方法は、比較的上手く曲げやすいと思います。
細いものに巻き付ける場合もカーブが緩やかすぎになりがちです。一旦、90度よりも多く曲げ(鋭角に曲げる)、その後90度に戻すという手順が良さそうです。
私は、板切れに釘を打った簡単な治具を作ってみました。
これも細いものに巻き付ける方法の一種です。単純にこれに添わせて曲げると外側に膨らんだ丸みを帯びた形状になってしまいます(型紙よりも大きなサイズになってしまう)。そのため、一旦大きく曲げてから戻して成形しています。
大きく曲げてから戻すため、歪みが生じやすいように思います。
いろいろな方法が考えられますが、言い換えれば、「これ!」という良い方法が見つかっていません。アイデアがあれば教えてください。
上でも紹介しましたが、ミニバイスを使うといいみたいです。こちらをご覧ください。
どの方法を取るにせよ、最終的に型紙に合せてしっかり整形することが重要です。
また、【追記】で書いたように、電動ドリルでワイヤを真っ直ぐにすることで硬くなり、曲げやすくもなります。
基板のパターン上にもワイヤを付ける必要はあるの?
基板上にもワイヤを乗せているのは、帯域を広く取るためです。1200MHzのような高い周波数では表皮効果の影響が大きいようで、ワイヤの太さによってかなりの影響があります。より太いワイヤ(やパイプ)を使うともっと広帯域にできると思います。
その点を別にすれば、パターン上にワイヤをハンダ付けしなくても動作します。その場合はコの字上のワイヤを二つハンダ付けすればOKです(基板にハンダ付けする部分はそれぞれ1cm位ずつなど)。ただし、この場合は型紙の寸法では同調点がずれます。当初の試作段階では、調整できるように、この方法で作りました。調整が取れたところでワイヤが乗っていないところにワイヤを乗せてハンダ付けしたら同調がずれました。これも表皮効果の影響でしょう。
基板の穴は?
単純に軽くするための措置です。動作上の影響はないと思います。
このアンテナを竿などに括りつけて使う場合には、固定用として利用できると思います(なお、竿などは絶縁物を使用してください)。
また、見ての通り、防水加工はしておりませんので、固定運用などで使用する場合はコネクタ部の防水を考えてください。
ワイヤのゆがみが許せない
容易に加工できることを優先したためスズメッキ線(=軟銅線)を使用しております。そもそも、直径10cm位に丸められて販売されているものですので、その時点で歪みが生じています。
もっと硬い素材、例えば、真鍮棒などを使用すればゆがまない(ゆがみが少ない)ものを作れると思います。ただし、素材の違いによって同調点がずれるかもしれません。もし、別の素材で製作したなら、ぜひ結果を教えてください。
頒布
終了しました
【注意事項】
- 部品の調達の都合上、上の写真とは異なる場合があります。
- 資源の有効活用のため、梱包材は再利用することがあります。ご了承ください。
- 仕様や頒布価格は予告なく変更することがあります。
- 本機の組立てや使用による怪我・事故等には責任を負いません。
2020年6月頒布分から基板のデザインが若干変わります。穴のサイズと個数を変更しただけです。その他は変りありません。単に穴を大きくしたくなっただけです。これによる特性の違いはありません。型紙の図は修正しません。ご了承ください。
【価格】
- 頒布価格: 900円
- 送料: 230円
- 支払い方法: 銀行振込
【申込みフォーム】
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